水墨画と聞くと「敷居が高い」と感じるかもしれませんが、実は動物を描くのにぴったりの画法です。墨一色の濃淡と筆の勢いを活かせば、細かい毛並みを一本一本描かなくても、生き生きとした動物の姿を表現できます。大切なのは、完璧に写生することではなく、その動物の「らしさ」を筆に乗せることです。初心者の方でもすぐに始められる、シンプルで楽しい動物の描き方のコツを詳しくお伝えします。
水墨画で動物を簡単に描くコツは筆運びと余白で決まる
水墨画で動物を上手に、かつ簡単に描くための最大の秘訣は、すべてを描き込もうとしないことです。墨の性質を活かせば、一筆の中に光と影、そして立体感を同時に宿らせることができます。また、紙の白さを「何もない場所」として放置するのではなく、空気や地面として活用する「余白」の考え方が、作品にプロのような深みを与えてくれます。まずは、基本となる考え方と筆の扱い方から整理しましょう。
形は丸と線で組み立てる
動物を描く際、最初から骨格や筋肉を意識しすぎると、形を捉えるのが難しくなります。水墨画で簡単に描くコツは、動物の体を「丸(楕円)」と「線」の組み合わせとして捉えることです。例えば、猫であれば大きな楕円が体、小さな丸が頭、そして曲線が尻尾といった具合に、記号のように簡略化してイメージします。
このとき、下書きを細かく描く必要はありません。墨は一度紙に乗せると消せないため、頭の中で大まかな形を配置する練習をします。筆を動かす際は、紙に置くときの圧力を変えることで、一つの丸の中にも太い部分と細い部分を作り、動物らしい肉付きを表現します。正確な写生を目指すよりも、全体のシルエットがその動物に見えるかどうかを優先すると、勢いのある生き生きとした絵になります。
慣れてきたら、丸の端を少し尖らせて関節を表現したり、線の太さに強弱をつけて筋肉の動きを感じさせたりしましょう。最初は歪んでも構いません。墨の滲みが意外なリアルさを生んでくれることもあるため、失敗を恐れずに思い切りよく筆を動かすことが、上達への一番の近道です。
濃淡は一筆で分ける
水墨画の醍醐味は、一筆の中に「濃い墨」と「淡い墨」を共存させる「調墨(ちょうぼく)」という技法にあります。これは、筆全体に薄い墨を含ませた後、筆の先だけに濃い墨をつける方法です。この状態で筆を横に寝かせて滑らせると、一回なぞるだけで、外側が濃く内側が淡い、あるいはその逆といった美しいグラデーションが自然に生まれます。
この技法を使えば、動物の体の丸みや立体感を一瞬で表現できます。例えば、背中のラインを一筆で描くと、濃い部分が輪郭になり、淡い部分が体に当たる光の反射を表現してくれます。何度も塗り重ねて立体感を作る西洋画とは異なり、一筆で勝負を決めるのが水墨画の潔さであり、簡単に見える理由でもあります。
筆に含まれる水の量を調整することで、滲みの広がり方もコントロールできます。水が多いとフワフワした毛並みの表現になり、水が少ないと「掠れ」が生まれて硬い質感や速い動きを表現できます。まずは小皿で墨を何段階かの濃さに作り分け、筆の中でそれらをどう組み合わせるか試してみることから始めてください。
目と鼻だけで表情を作る
動物の顔を細かく描き込みすぎると、水墨画特有の「ゆとり」が消えてしまいます。可愛らしさや賢さを表現するポイントは、実は「目と鼻」の配置に集約されています。極端な話、顔の輪郭が曖昧でも、正しい位置にポツンと濃い墨で目と鼻を描くだけで、見る人の脳が勝手に生き生きとした顔として認識してくれます。
目は「点」一つで描くのが基本ですが、その点の形や位置で感情を表せます。少し横長に打てば穏やかな表情になり、丸くハッキリ打てば好奇心旺盛な様子になります。鼻は目よりも少し下に、小さな三角形や点として配置します。このとき、鼻と口の距離を少し近づけるのが、動物を可愛らしく描くための共通のコツです。
顔の毛並みやヒゲは、最後にごく細い筆や筆の先を使って、サッと最小限に描き足す程度で十分です。すべてを説明しようとせず、あえて描かない部分を作ることで、観る側の想像力を引き出すことができます。引き算の美学を意識して、顔のパーツは「ここぞ」という場所に命を吹き込むつもりで描き入れましょう。
余白で動きを見せる
水墨画において、描かれていない白い部分は単なる空白ではありません。そこには空気、光、地面、そして動物がこれから動こうとする「空間」が存在しています。動物を画面の真ん中に大きく描くのではなく、あえてどちらかに寄せて配置し、進行方向に広い余白を作ることで、動物が今まさに歩き出そうとしている躍動感を演出できます。
例えば、小鳥が空を見上げている構図なら、その視線の先に大きな余白を設けます。すると、観る人はその空白に広大な空を感じ取ることができます。余白は、動物の感情や物語を語るための大切な舞台装置です。紙の白さを活かすために、背景は一切描かないか、あるいは足元に一筆だけ薄い墨で線を引いて「地面」を暗示させる程度に留めましょう。
余白を意識できるようになると、作品全体に上品な静寂と品格が生まれます。描きたい対象を際立たせるために、あえて周りを描かないという勇気を持つことが、初心者から一歩抜け出すための重要なポイントです。白い紙を無限に広がる世界として捉え、そこに一匹の動物を解き放つような感覚で構図を考えてみてください。
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水墨画の動物が描きやすいおすすめ道具
道具選びは、水墨画の楽しさを左右する大切な要素です。動物の柔らかい毛並みを表現するには、保水力の良い筆や、墨の滲みが美しい紙が必要になります。最近では、初心者でも扱いやすいセットや、手軽に始められる墨液も充実しています。ここでは、特に動物を描くのに適した高品質な道具を厳選してご紹介します。
| 道具のカテゴリ | おすすめの商品名 | 特徴 | 公式サイトリンク |
|---|---|---|---|
| 墨液(墨汁) | 呉竹 墨滴 案山子 | 伸びが良く、濃淡が作りやすい初心者向けの定番 | 株式会社呉竹 |
| 筆(中・小) | あかしや 削用・面相筆 | 線の強弱がつけやすく、細かい表情も描きやすい | 株式会社あかしや |
| 画仙紙 | 開明 画仙紙 練習用 | 適度な滲みがあり、毛並みの表現に最適 | 開明株式会社 |
| 下敷き | 呉竹 下敷(フェルト) | 適度なクッション性で筆運びをサポート | 株式会社呉竹 |
| 顔彩(着色) | 呉竹 顔彩耽美 12色セット | 墨の色を引き立てる上品な発色の水性絵具 | 株式会社呉竹 |
墨汁と小皿
本格的な水墨画では墨を磨ることから始めますが、初心者が手軽に動物を描くなら、高品質な墨汁(墨液)を使うのが便利です。水墨画用の墨汁は、書道用に比べて粒子の細かさや色味の深さが工夫されており、水で薄めたときのグラデーションが非常に美しく出ます。真っ黒な原液をそのまま使うのではなく、必ず小皿に数段階の薄さの墨を用意しておきましょう。
小皿は、絵の具のパレットのような役割を果たします。三つの小皿を用意し、「濃墨(原液)」「中墨(少し薄めたもの)」「淡墨(たっぷり水で薄めたもの)」を作っておくと、一筆の中で濃淡を作る調墨がスムーズに行えます。白い小皿を使うと、墨の正確な濃さが確認できるためおすすめです。墨汁一滴で驚くほどたくさんの色が作れる楽しさを、ぜひ体験してください。
小筆と中筆
動物を描くには、少なくとも二種類の筆があると便利です。一つは、体の大部分や背景的な要素を描くための「中筆(ちゅうふつ)」です。羊の毛などを使った柔らかい筆(羊毛筆)は水を多く含むため、動物のふんわりとした質感や広い面の塗り分けに適しています。もう一つは、目や鼻、ヒゲなどの細部を描き込むための「小筆」や「面相筆(めんそうふで)」です。
小筆は、腰が強く先がよく利くものを選ぶのがポイントです。これにより、細く鋭い線を安定して引くことができます。動物の表情は一瞬の筆運びで決まるため、自分の思い通りに動く信頼できる筆を一組持っておくことが、作画のストレスを減らす鍵となります。使った後は水で丁寧に洗い、風通しの良い場所で乾燥させることで、良い筆は長く使い続けることができます。
にじみに強い画仙紙
水墨画の表現の半分は、紙が決めるといっても過言ではありません。水墨画で一般的に使われる「画仙紙(がせんし)」には、墨がじんわりと広がる「滲み」の特性があります。動物を描く際は、適度な滲みが出るものを選ぶと、一筆書いただけで毛の柔らかさを表現できます。ただし、滲みすぎて形が崩れてしまうのを防ぐため、最初は「練習用」として販売されている、少し控えめな滲みの紙が扱いやすいです。
紙の表裏には注意が必要です。ツルツルした面が表、少しザラついた面が裏になります。動物を描くときは、基本的に表側を使いますが、あえて裏側を使って掠れを強調する技法もあります。また、ハガキサイズの画仙紙も手軽で、一枚の絵を短時間で仕上げる練習にぴったりです。紙の質感や厚みによって墨の表情が全く変わるため、いろいろな種類を試してお気に入りを見つけてみましょう。
下敷き用のフェルト
画仙紙は非常に薄いため、そのまま机の上で描くと墨が裏まで通り抜けて机を汚してしまいます。それを防ぐだけでなく、筆の圧力を適切に受け止めるために、必ずフェルト製の下敷きを敷きましょう。100円ショップの書道用下敷きでも構いませんが、少し厚みのあるものを選ぶと、筆先が紙に吸い付くような心地よい感触が得られ、線のコントロールがしやすくなります。
色は一般的に黒や紺が多いですが、白い紙を乗せたときに輪郭が見えやすいように配慮されています。動物の繊細な毛並みを表現する際、下敷きの弾力があることで、筆の「入り」と「抜き」がスムーズになり、掠れや滲みを自在に操れるようになります。見落とされがちな道具ですが、快適な作画環境を作るためには欠かせない存在です。
水差しと筆洗
墨の濃淡を調整するために、清潔な水を用意しておく必要があります。水差しは、小皿に水を注いで墨の濃さを微調整する際に重宝します。一滴ずつコントロールできる注ぎ口のものがあると便利です。筆洗(ひっせん)は、筆を洗うための容器ですが、水墨画では「筆を洗う用」と「綺麗な水を含ませる用」に分けて二つ用意するのが理想的です。
筆に少しだけ水を含ませてから墨をつけることで、一筆の中のグラデーションが生まれます。このとき、筆を洗う容器の水が墨で真っ黒だと、薄い墨(淡墨)が綺麗に作れません。常に一つは透明な水をキープしておくことが、澄んだ美しい作品を仕上げるための秘訣です。陶器製の筆洗は安定感があり、見た目にも風情があって制作意欲を高めてくれます。
朱墨や淡彩用の顔彩
基本は墨一色で描く水墨画ですが、アクセントとして色を加えることで、動物がより魅力的に見えます。例えば、金魚の体や鳥のくちばし、猫の耳の内側などに、ほんの少し「朱墨(しゅぼく)」や「顔彩(がんさい)」を添えてみましょう。墨の黒と鮮やかな色のコントラストは、日本画特有の気品ある美しさを生み出します。
顔彩は、固形化した日本画用の絵具で、水を含ませた筆で撫でるだけで簡単に使えます。100均の絵具とは異なり、粒子が細かく、墨と混ぜても濁りにくいのが特徴です。あくまでメインは墨であるため、色は「添える」程度に留めるのが、水墨画らしさを失わないコツです。色が入ることで、作品に季節感や温度が加わり、より表現の幅が広がります。
簡単に見える水墨画の動物モチーフと描き方の流れ
水墨画でいきなり複雑なポーズの動物を描くのは大変です。まずは、少ない筆数で特徴を捉えやすいモチーフから練習しましょう。一筆で形が決まる爽快感や、墨が紙に染み込んでいく様子を楽しみながら、少しずつステップアップしていくことができます。ここでは、初心者の方におすすめの四つの定番モチーフと、その描き方の流れを詳しく解説します。
猫は耳と目で雰囲気を出す
猫は水墨画の中でも非常に人気のあるモチーフです。簡単に描くための流れは、まず頭と体の「丸」を意識することから始まります。淡い墨を含ませた中筆を横にして、背中のラインからお尻にかけて一気に描きます。このとき、筆の中に濃淡をつけておくと、それだけで猫の体の立体感と毛の質感が表現できます。
顔を描く際の最大のポイントは耳です。筆の先を使って、ピンと立った三角形を二つ描きます。この耳の間隔や角度で、猫が何かに注目しているのか、リラックスしているのかが伝わります。次に、顔の中心より少し下に目と鼻を小さな点で打ちます。この三つのパーツのバランスさえ整っていれば、多少輪郭が歪んでいても、観る人にはしっかりと「猫」として認識されます。
最後に、乾ききる前に細い筆でヒゲをササッと数本描き足しましょう。ヒゲはあまり丁寧に描きすぎず、勢いよく払うように描くのがコツです。墨の滲みが乾いていくと、筆跡が馴染んでふわっとした猫らしい質感が浮かび上がってきます。まずは丸まった姿や、後ろ姿などの描きやすいポーズから挑戦してみてください。
小鳥は胴体のにじみで羽を表す
小鳥は、わずか数筆で完成させることができる水墨画に最適なモチーフです。まずは中筆にたっぷり水を含ませ、淡い墨をつけて、胴体となる楕円を一筆で描きます。このとき、墨がジュワッと広がる「滲み」をあえて利用します。この滲みそのものが、小鳥のふわふわした羽毛の質感を完璧に表現してくれます。
胴体が乾かないうちに、少し濃い墨をつけた筆の先で、羽の端や尻尾を一筋描き加えます。湿った紙の上で濃い墨が適度に混ざり合い、深みのある色彩が生まれます。頭部は胴体よりも一回り小さな丸を描き、乾いてから目とくちばしを小筆で描き入れます。くちばしは短い二本の線を「く」の字のように合わせるだけで、今にも鳴き出しそうな表情になります。
足は細い線で二本、Y字を逆さにしたような形で短く描きます。太い胴体と細い足のコントラストが、小鳥の軽やかさを際立たせます。梅の枝や柳の一枝を足元に添えるだけで、季節感あふれる素敵な作品に仕上がります。一筆ごとに形が変わる滲みの面白さを、小鳥という小さなモチーフで存分に楽しんでください。
うさぎは長い耳でシルエットを作る
うさぎを描く際の主役は、何といっても長い耳です。うさぎはシルエットが非常に特徴的なため、耳さえ正しく描ければ、他の部分はかなり省略してもそれらしく見えます。描き方の流れとしては、まず顔から背中にかけてのラインを淡い墨で大きく描き、その後にお尻の丸みを足します。この二つの塊がうさぎの土台になります。
次に、本番の長い耳を描き込みます。筆を立てて根元から先に向かってスッと引き上げ、最後に少しだけ力を抜いて耳の先を尖らせます。二本の耳を少しずらして描くと、奥行きが出てより立体的になります。耳の内側にほんの少しだけ薄い朱色を刺すと、血色の良いうさぎの瑞々しさが表現でき、非常に可愛らしく仕上がります。
顔のパーツは、他の動物よりもさらに控えめで構いません。目は丸く一箇所に打ち、鼻先はごく小さな点で表現します。うさぎは「白」のイメージが強いため、あえて墨で塗りつぶさず、輪郭線と部分的な影だけで表現する「白描(はくびょう)」のような手法も効果的です。紙の白さを最大限に活かして、清潔感のあるうさぎを描き上げてみましょう。
金魚は尾びれの一筆で動きを出す
金魚は、水の流れと優雅な動きを表現するのにぴったりの題材です。金魚を簡単に描くコツは、胴体よりも「尾びれ」に注目することです。まず、淡い墨(または薄い朱色の顔彩)でラグビーボールのような形の胴体を描きます。そして、ここからが一番の見せ場である尾びれの描写です。
筆をたっぷり水に浸し、墨を先端だけにつけて、胴体の後ろから外側へ向かって扇状に筆を走らせます。このとき、筆を少しひねりながら動かすと、尾びれのヒラヒラとした薄さと、水の中を泳ぐ躍動感が生まれます。一筆の中でできる掠れや滲みが、水の抵抗を感じさせる素晴らしい効果になります。
仕上げに、胴体の上部に少し濃い墨で背びれを、顔の先端に丸い目を二つ描き入れます。金魚は正面から見た顔も愛嬌があって面白いモチーフです。周囲に筆の先から水を飛ばして「水しぶき」を作ったり、薄い墨で輪を描いて「波紋」を表現したりすると、金魚が本当に水の中で泳いでいるような生き生きとした作品になります。
水墨画の動物を簡単に描くための要点まとめ
水墨画で動物を描くことは、自分の感性を研ぎ澄まし、最小限の表現で最大限の魅力を引き出す素晴らしい体験です。
まずは、完璧な形を追求するのではなく、「一筆の中に宿る濃淡」や「紙の余白が作る空間」を楽しむことから始めてください。猫の耳や小鳥の羽など、その動物を象徴するパーツを大切に描くだけで、墨は魔法のように生命を吹き込んでくれます。
適切な道具を揃え、滲みや掠れといった墨特有の偶然性を味方につけることが、簡単に、そして楽しく上達するための近道です。最初は思うようにいかないこともあるかもしれませんが、それも水墨画の味わいの一つ。一枚の紙に向き合い、墨の香りに包まれながら、あなたの手の中から生まれる可愛らしい動物たちとの対話をぜひ楽しんでみてください。“`
世界70か国で愛されるコピック!
ペンにこだわると、イラストがどんどん上達します。

