アクリル絵の具は発色が良く、乾くと耐水性になるため非常に扱いやすい画材です。しかし、時間が経つにつれて色が褪せたり、表面が剥がれたりすることに悩む方も少なくありません。せっかく描いた大切な作品をいつまでも美しく保つためには、塗り方の工夫だけでなく、最後の「保護」が非常に重要です。色落ちの原因を知り、適切な対策をマスターしていきましょう。
アクリル絵の具の色落ち防止は仕上げの保護で差がつく
アクリル絵の具は乾燥すると丈夫な塗膜を作りますが、そのままの状態では外部からの影響を直接受けてしまいます。特に日常生活で触れる機会が多い小物や、日光の当たる場所に飾る作品は、何もしないままだと劣化が進みやすいものです。色落ちを未然に防ぐためには、まず「なぜ色が落ちるのか」という原因を理解し、物理的なガードを作る仕上げ作業が欠かせません。
色落ちしやすい原因は紫外線と摩擦が多い
アクリル絵の具が色落ちしたり褪せたりする最大の原因は、紫外線によるダメージと物理的な摩擦です。太陽光に含まれる紫外線は、絵の具に含まれる顔料の分子構造を少しずつ破壊していきます。特に赤や黄色といった特定の色彩は紫外線の影響を受けやすく、数年経つと色が薄くなったように感じることがあります。室内であっても窓際などは注意が必要です。
また、摩擦も大きな要因です。スマートフォンのケースやカバン、靴といった実用的なアイテムに塗装した場合、手が触れたり物とこすれたりすることで塗膜が摩耗します。アクリル絵の具は乾くとゴムのような質感になりますが、強い摩擦が繰り返されると表面が削れたり、端からめくれたりします。
こうした外部刺激から作品を守るためには、絵の具の層の上に「犠牲膜」となる透明な保護層を作ることが有効です。直接絵の具の層にダメージが届かないように工夫することで、色の鮮やかさを長期間維持できるようになります。作品の用途に合わせて、どの程度の保護が必要かを考えることが色落ち防止の第一歩です。
定着は乾燥時間で大きく変わる
アクリル絵の具は、表面が乾いたように見えても内部まで完全に定着するには時間がかかります。一般的に、表面は数十分から数時間で乾きますが、塗膜の中の水分が完全に抜けて樹脂が安定する(硬化する)までには数日から一週間ほど必要です。この「完全乾燥」の前に保護剤を塗ったり、激しく触ったりしてしまうと、定着不良を起こして剥がれやすくなります。
乾燥が不十分な状態で上からニスなどを塗ると、中に閉じ込められた水分が逃げ場を失い、塗膜を浮かせてしまうことがあります。これが原因で、後からペリペリと絵の具が剥がれてしまうトラブルがよく起きます。特に厚塗りをした場合は、見た目以上に内部に水分が残っているため、十分な養生期間を置くことが大切です。
焦って仕上げをしてしまうと、せっかくの努力が台無しになることもあります。作品が完成した直後の達成感ですぐに触りたくなりますが、ぐっとこらえて風通しの良い場所でしっかり休ませましょう。時間の経過とともに樹脂が素材にしっかり食い込み、簡単には落ちない強固な塗膜へと変化していきます。
素材によって剥がれやすさが違う
絵の具を塗る土台(支持体)の種類によっても、色落ちや剥がれやすさは大きく異なります。キャンバスや紙、木材などのように表面に凹凸があり、水分を吸収する素材は、絵の具の樹脂が繊維の中まで入り込むため非常に強力に定着します。こうした素材では、よほどのことがない限り自然に色が落ちることはありません。
一方で、プラスチック、金属、ガラスといった表面が滑らかで水分を吸わない素材は注意が必要です。これらは絵の具が表面に乗っているだけの状態になりやすく、少しの衝撃で剥がれてしまいます。こうした素材に塗る場合は、事前の下地処理が成功の鍵を握ります。素材と絵の具を仲立ちするプライマーを使用したり、表面を軽くやすりで削って引っかかりを作ったりする工夫が必要です。
自分の描こうとしている素材が「水を吸うか吸わないか」をまず確認してください。吸わない素材の場合は、ただ塗るだけでは色落ちを防ぐことは困難です。素材の特性に合わせた適切なアプローチを選ぶことが、将来的な色落ちや剥落を食い止めるための重要なポイントになります。
仕上げ剤を使うと安心感が増す
作品を完成させた後に「仕上げ剤」を使用することは、色落ち防止において最も効果的な手段です。仕上げ剤には、スプレータイプや筆で塗る液体タイプがあり、画面全体を透明な樹脂でコーティングしてくれます。これにより、前述した紫外線や摩擦、さらには埃や湿気といったあらゆる脅威から作品を物理的に隔離できます。
仕上げ剤を使用するメリットは保護だけではありません。画面全体のツヤを「つやあり(グロス)」や「つや消し(マット)」で統一できるため、作品としての完成度も一段と高まります。特に、異なるメーカーの絵の具を混ぜて使った場合などは、部分的にツヤがバラバラになりやすいため、仕上げ剤で整えることでプロのような美しい見た目になります。
「せっかく描いた絵の質感が変わってしまうのが怖い」と感じる方もいるかもしれませんが、最近の仕上げ剤は非常に高品質で、絵の具の風合いを損なわないものも多いです。大切な作品であればあるほど、最後に一枚のバリアを張ってあげることで、数年後、数十年後も変わらない姿を楽しむことができるようになります。
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色落ちを防ぐのに役立つおすすめ保護アイテム
アクリル絵の具の色落ちや褪色を防ぐためには、信頼できるメーカーの保護アイテムを選ぶことが大切です。作品の形状や素材に合わせて使い分けられる定番のアイテムをご紹介します。
リキテックス バーニッシュ(つや消し/つやあり)
世界的に有名なリキテックスの保護ニスです。液体タイプで、筆を使って丁寧に塗り広げることができ、非常に強固な保護膜を作ります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 柔軟性があり、キャンバスの動きにも追従する |
| 種類 | グロス(つやあり)、マット(つや消し)、サテン(半つや) |
| 公式サイト | リキテックス公式 バーニッシュ製品ページ |
ターナー 画面保護用ワニス スプレー
手軽に使えるスプレータイプのワニスです。筆跡を残したくない場合や、複雑な形状の立体物に均一に塗布したいときに非常に便利です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 速乾性で、ムラになりにくい細かい霧が出る |
| 用途 | 絵画作品からホビー、工作まで幅広く対応 |
| 公式サイト | ターナー色彩公式 画面保護用ワニス |
ホルベイン アクリリック バーニッシュ
日本の老舗メーカー、ホルベインが提供するアクリル専用ニスです。透明度が高く、絵の具の鮮やかな色をそのまま閉じ込めることができます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 塗膜が丈夫で、防塵・防汚効果が高い |
| 種類 | クリスタルグロス、マットなど |
| 公式サイト | ホルベイン公式 アクリリックメディウム |
UVカット クリアスプレー(工作・DIY用)
日当たりの良い場所に置くものや、屋外で使用する工作物に最適なスプレーです。紫外線を吸収・遮断する成分が含まれており、褪色を強力に防ぎます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 紫外線による顔料の劣化を最小限に抑える |
| 用途 | 日用雑貨、インテリア、ガーデニング小物など |
| 公式サイト | アサヒペン UVカットスプレー(参考) |
仕上げ用メディウム(グロス/マット)
絵の具に混ぜることも、上から塗ることもできる万能な補助剤です。保護力はニスよりやや劣りますが、自然な風合いで仕上げたい時に重宝します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 絵の具との親和性が高く、塗り重ねが容易 |
| 用途 | 制作中のツヤ調整や、軽い表面保護 |
| 公式サイト | バニーコルアート リキテックスメディウム |
定着用フィキサチフ(色鉛筆併用時)
アクリル絵の具の上に色鉛筆やパステルで描き足した場合に必要な定着液です。粉状の画材が手についたり落ちたりするのを防ぎます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 粒子を紙に固定し、こすれによる汚れを防ぐ |
| 注意点 | アクリル絵の具単体の保護にはバーニッシュがおすすめ |
| 公式サイト | ホルベイン フィキサチフ製品情報 |
色落ちしにくい塗り方と乾燥のコツ
色落ちを防止するためには、保護剤を使う前の「塗り方」そのものにもコツがあります。絵の具が素材にしっかりと密着し、安定した層を作ることで、将来的なトラブルを大幅に減らすことが可能です。ちょっとした手間を惜しまないことが、作品の寿命を延ばすことにつながります。
薄く重ねて塗膜を安定させる
一度に厚く絵の具を塗りすぎてしまうのは、色落ちや剥がれの原因になりやすいです。厚塗りをすると、表面だけが先に乾いて中に水分が残り、塗膜が不安定な状態になります。また、厚い層は乾燥時の収縮が大きいため、素材から浮き上がりやすくなることがあります。
基本は「薄塗りの重ねがけ」です。水やメディウムで適度に薄めた絵の具を、薄く均一に塗り広げます。それが乾いたら、また次の層を重ねるという作業を繰り返します。こうしてできた多層の塗膜は、一層あたりの結合が強く、非常に安定した仕上がりになります。
特に、色の発色を良くしようとして最初からこってりと塗るのではなく、薄い層を3回、4回と積み重ねる方が、結果的にムラのない美しい色になり、耐久性も向上します。急がば回れの精神で、丁寧な積層を心がけてみてください。
完全乾燥してから触るのが基本
前述した通り、アクリル絵の具には「表面乾燥」と「完全乾燥(硬化)」の二段階があります。指で触ってベタつかないからといってすぐに保護剤を塗ったり、梱包して箱に入れたりするのは避けるべきです。樹脂がしっかりと素材に定着し、分子レベルで安定するまでには、意外と時間がかかるものです。
制作が完了してから、少なくとも24時間、できれば2〜3日は何もせずに放置するのが理想的です。この期間に樹脂が収縮し、素材と一体化していきます。特に湿度の高い日や冬場などは乾燥が遅れるため、通常より長めに時間を取る必要があります。
完全に乾いた後の塗膜は、少々の水や摩擦ではびくともしない強さを持ちます。この「待ち時間」も立派な制作工程の一つだと考え、作品をじっくり熟成させるつもりで接してあげましょう。
塗る前の脱脂で剥がれを防げる
プラスチックや金属などの水分を吸わない素材に描く場合、最も重要なのが塗る前の「洗浄と脱脂」です。素材の表面に油分や埃、指紋などが付着していると、絵の具はその汚れの上に乗っているだけになり、簡単に剥がれ落ちてしまいます。
塗る前に、中性洗剤を薄めた水や、エタノールを含ませた布で表面をきれいに拭き取りましょう。これだけで絵の具の密着力が劇的に変わります。特に、手で直接触れた箇所には皮脂が付いているため、洗浄した後はできるだけ塗装面に指で触れないように注意してください。
もし余裕があれば、細かい目のやすり(400番〜800番程度)で表面を軽くこすり、微細な傷をつける「足付け」という作業も併せて行うと効果的です。絵の具がその傷に入り込み、物理的な引っかかりが生まれることで、剥落のリスクを最小限に抑えることができます。
使う絵の具は耐光性表記も確認する
色落ち防止において、道具選びの段階からできる対策もあります。それは、絵の具のパッケージに記載されている「耐光性(たいこうせい)」のランクを確認することです。耐光性とは、光(紫外線)に当たったときにどれだけ変色しにくいかを示す指標です。
多くの専門家向けアクリル絵の具には、星印(★★★など)やアルファベットでこのランクが表記されています。星が多いほど光に強く、時間が経っても色が変わりにくいことを示しています。特に赤系や紫系の色は、安価な絵の具だと数ヶ月で褪せてしまうことがありますが、高ランクの絵の具を選べばそのリスクを低減できます。
「100円ショップの絵の具」と「メーカー品」の最大の違いの一つが、この耐光性です。長期間保存したい作品を作る際は、少し予算をかけてでも耐光性に優れた絵の具を選ぶことが、将来的な色落ちへの一番の備えになります。
作品別の色落ち対策と保管の工夫
作品の種類や飾る場所によって、最適な色落ち対策は変わります。キャンバスに描いた本格的な絵画から、日常で使うスマホケースや布製品まで、それぞれのケースに合わせた具体的なアドバイスと、作品を守るための保管のコツをまとめました。
キャンバス作品はニスで紫外線を減らす
キャンバスに描いた絵画作品は、壁に掛けて長く鑑賞することが目的です。そのため、最大の敵は「日光(紫外線)」と「埃」になります。仕上げには必ず、UVカット効果のあるバーニッシュ(ニス)を塗布しましょう。
筆で塗るタイプは厚みが出るため保護力が高いですが、筆跡を気にする場合はスプレータイプがおすすめです。数回に分けて薄く吹きかけることで、均一な保護膜ができます。また、額縁に入れる際は、アクリル板やUVカットガラス付きのものを選ぶと、さらに防御力が高まります。定期的に柔らかい羽ぼうきなどで埃を払うことも、塗膜の劣化を防ぐことにつながります。
プラスチックは下地で密着を強くする
スマホケースやフィギュアなどのプラスチック製品は、日常的に触れたり落としたりする可能性があるため、色落ちよりも「剥がれ」への対策が重要です。塗る前の洗浄はもちろんですが、必ずプラスチック専用のプライマー(下地材)を最初に使用してください。
下地をしっかり作ったら、塗装後には必ず丈夫なトップコート(保護スプレー)を重ねます。実用品の場合は摩擦が激しいため、2〜3回重ね塗りをして保護層を厚めにしておくと安心です。それでも完全に剥がれを防ぐのは難しいため、定期的に状態をチェックし、剥げかかっている部分は早めに補修する習慣をつけましょう。
布は洗濯を想定して定着方法を変える
Tシャツや布バッグに描いた場合、最大の懸念は「洗濯」による色落ちです。アクリル絵の具は乾くと耐水性になりますが、布の繊維を激しく洗うと剥がれ落ちてしまいます。布に描く際は、絵の具を布に浸透させやすくする「ファブリックメディウム」を混ぜて使うのが基本です。
描いた後は、完全に乾いてから当て布をしてアイロンをかけると、熱によって樹脂が繊維にさらに強固に定着します。洗濯する際も、作品を裏返しにしてネットに入れ、手洗いコースなどの優しい設定で洗うようにしましょう。こうした細かな配慮が、布作品の色鮮やかさを守るポイントになります。
保管は直射日光と高温多湿を避ける
作品の保管場所も、色落ちのスピードを大きく左右します。直射日光が当たる場所は論外ですが、実は「高温多湿」もアクリル絵の具にとっては好ましくありません。湿度が高すぎると塗膜が柔らかくなってベタつき、他のものとくっついて剥がれてしまうことがあります。
作品を保管する際は、以下の条件を意識してください。
- 直接日光が入らない暗所、または遮光された場所
- 風通しが良く、湿気がこもらない場所
- 作品同士が直接重ならないよう、薄紙(パラフィン紙など)を挟む
- 押し入れの奥などはカビの原因にもなるため、定期的に空気を通す
また、アクリル絵の具は極端な寒さ(氷点下など)にも弱く、塗膜が凍るとひび割れの原因になります。人間が快適に過ごせる程度の温度・湿度を保つことが、作品にとっても一番の健康法です。
アクリル絵の具の色落ち防止を続けるまとめ
アクリル絵の具の色落ち防止は、特別なことではなく「素材への理解」と「丁寧なひと手間」の積み重ねです。塗る前の掃除、焦らない乾燥、そして最後に選ぶ保護アイテム。これらの一つひとつが、あなたの想いがこもった作品を未来へと繋いでくれます。
大切なのは、描き終えた瞬間をゴールと思わず、その後の「守る工程」までを制作の一部として楽しむことです。今回ご紹介した保護アイテムや塗り方のコツを実践して、色褪せない鮮やかなアートライフを楽しんでください。正しく手入れをされた作品は、時間が経つほどに深い味わいを持ち、あなたの素晴らしい財産になっていくはずです。“`
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