せっかく素敵なイラストが描けても、データの渡し方を間違えると「色がくすんで見える」「画像が粗い」といったトラブルに繋がります。特にクライアントや印刷所へ送る場合は、相手の作業環境に配慮したデータ作成が欠かせません。スムーズな納品は信頼を築く第一歩です。データの書き出しから送付時のマナーまで、イラスト制作で必ず押さえておきたいデータの受け渡し術を詳しく見ていきましょう。
イラストのデータの渡し方で困らないために押さえたいこと
イラストを納品する際は、単に画像ファイルを送るだけでなく、相手がそのデータをどのように使うかを考えることが重要です。Webサイトに掲載するのか、それともポスターとして印刷するのかによって、最適な設定は全く異なります。後から「サイズが足りない」「色が違う」といった修正作業が発生しないよう、事前に確認しておくべきポイントを整理しておきましょう。
まずは納品形式と用途を確認する
イラストを書き出す前に、まずは「どのような形式で渡すべきか」を相手に確認します。一般的には、背景が不要ならPNG、写真のように色数が多いならJPG、編集可能な状態で渡すならPSD(Photoshop形式)などが選ばれます。用途がWeb用か印刷用かによって、設定すべきカラーモードも変わります。
Web用のイラストであれば、モニターで鮮やかに表示される「RGBカラー」で作成します。一方、チラシや同人誌などの印刷物の場合は、インクで表現できる「CMYKカラー」で納品するのが基本です。RGBのまま印刷所に送ってしまうと、出来上がりの色が想定よりくすんでしまうことが多いため、必ず制作前に確認が必要です。
[Image of RGB vs CMYK color models]
用途に合わせて、予備の形式を含めて数パターン用意しておくと、受け取り側にとって非常に親切です。例えば「高解像度のPNG」と「確認用の軽いJPG」をセットで渡すと、相手はすぐに内容を確認でき、その後の作業もスムーズに進められます。
解像度とサイズで仕上がりが変わる
解像度とは、画像の細かさを表す数値(dpi)のことです。これが適切でないと、画面上では綺麗に見えても、印刷したときにドットが目立ってガタガタになってしまいます。Web用であれば「72dpi」、印刷用であれば「350dpi」が一般的な基準です。この数値を間違えると、サイズ感そのものが狂ってしまうこともあるため、注意が必要です。
また、ピクセル数やセンチメートルといった「物理的なサイズ」も重要です。例えば、A4サイズの印刷物に使うイラストなら、350dpiで「2894 × 4093ピクセル」程度の大きさが必要になります。最初から必要なサイズよりも少し大きめに描いておくと、後から少し拡大してレイアウトを調整したいという要望にも応えやすくなります。
逆に、Web用で数千ピクセルもある巨大なデータをそのまま送ると、相手のデバイスに負荷をかけたり、メールの容量制限に引っかかったりします。相手の指定がない場合でも、用途を想像して「十分かつ無駄のないサイズ」に調整して書き出すのが、プロとしてのスマートな振る舞いです。
送る前にファイル名と整理を整える
データの中身と同じくらい大切なのが、ファイル名の付け方です。「イラスト.png」や「最終2.psd」といった曖昧な名前では、相手が多くのデータを扱っている場合、どれがどの案件か分からなくなってしまいます。「20260124_案件名_制作者名_v01.png」のように、日付、内容、バージョン、名前を含めるのが理想的です。
レイヤーが保持されるPSDやCLIP形式で渡す場合は、レイヤーの整理も忘れずに行いましょう。不要な下描きレイヤーやゴミ箱代わりの非表示レイヤーが残っていると、データ容量が無駄に重くなるだけでなく、相手が編集する際に混乱を招きます。レイヤー名に「線画」「着色」「背景」と名前を付け、関連するものはフォルダにまとめておくと非常に喜ばれます。
また、不透明度の設定やレイヤー効果(乗算やスクリーンなど)が、相手のソフトで開いたときに正しく再現されるかも確認が必要です。特殊な機能を使っている場合は、レイヤーを統合した「統合済みデータ」も一緒に渡すと、表示の食い違いを防ぐことができます。
連絡文は短く要点だけで十分
データを送る際の連絡メッセージは、相手が内容をすぐに把握できるように、簡潔かつ明確にまとめるのがコツです。丁寧な挨拶も大切ですが、まずは「何を送ったのか」を真っ先に伝えましょう。ダラダラと長い文章は、多忙な相手の時間を奪ってしまうことになりかねません。
件名には「【イラスト納品】案件名/制作者名」と記載し、本文には以下の項目を箇条書きで添えます。
- 納品ファイルの内容(ファイル名と形式)
- ダウンロードURL(クラウドサービス利用時)
- 確認の期限(可能であれば)
- 補足事項(透過の有無やレイヤー構造についてなど)
「お世話になっております。ご依頼のイラストが完成しましたので、以下のURLよりお受け取りください」といったシンプルな一言で十分です。相手がデータを開いた後に「どのファイルが何用か」を迷わずに済むよう、短い説明を添える配慮を心がけましょう。
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イラストデータを渡すのに便利なおすすめサービス
イラストのデータは高解像度になるほど容量が大きくなり、メールに直接添付できないことがよくあります。そんな時に役立つ、大容量データを安全かつスムーズに共有できるサービスをご紹介します。
Googleドライブ(共有リンクで渡せる)
Googleアカウントがあれば誰でも利用できる、最も汎用性の高いクラウドストレージです。フォルダごと共有できるため、大量の差分がある場合や、複数枚のイラストを一度に渡したい時に非常に便利です。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 無料容量 | 15GB(Googleフォト、Gmailと共有) |
| 特徴 | 共有権限の細かな設定が可能(閲覧のみ、編集可など) |
| メリット | 相手もGoogleユーザーならそのまま自分のドライブへ保存できる |
| 公式サイト | Google ドライブ |
Dropbox(リンク共有と権限設定がしやすい)
クリエイターの間で古くから信頼されているサービスです。同期スピードが速く、デスクトップアプリを使えば普段のフォルダ操作と同じ感覚でデータをアップロードできます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 無料容量 | 2GB(紹介などで増量可能) |
| 特徴 | リンクにパスワードや有効期限を設定できる(有料版) |
| メリット | ファイルに直接コメントを書き込める機能があり、修正指示のやり取りが楽 |
| 公式サイト | Dropbox |
WeTransfer(大容量を手軽に送れる)
会員登録なしでも最大2GBまでのファイルを送れる海外発のサービスです。UIが非常にシンプルで、ファイルをドラッグ&ドロップしてメールアドレスを入れるだけで送信が完了します。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 無料容量 | 最大2GB(1回あたり) |
| 特徴 | 受信側も会員登録不要でダウンロード可能 |
| メリット | 面倒な設定がなく、とにかく「今すぐ送りたい」時に最適 |
| 公式サイト | WeTransfer |
GigaFile便(無料で大容量転送ができる)
日本のクリエイターに最も馴染み深い転送サービスの一つです。1ファイル300GBまでという圧倒的な大容量を無料で扱えるため、動画データや超高解像度のレイヤーデータも安心して送れます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 無料容量 | 1ファイル300GBまで(個数無制限) |
| 特徴 | 保存期間を最大100日まで選択可能 |
| メリット | パスワード設定やファイルのまとめ機能が無料で使える |
| 公式サイト | ギガファイル便 |
iCloud Drive(Apple同士の共有がスムーズ)
iPhoneやiPad、Macを使用しているイラストレーターにとって、最も身近な選択肢です。デバイス間の連携が強力で、iPadで描いたイラストをそのままリンク共有して納品することができます。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 無料容量 | 5GB |
| 特徴 | Apple製品との親和性が非常に高い |
| メリット | ブラウザ経由でも共有可能で、相手がWindowsでも受け取れる |
| 公式サイト | iCloud |
OneDrive(Windows環境で管理しやすい)
Microsoftが提供するサービスで、Windows PCに標準搭載されていることが多いです。Officeソフトとの連携に優れているため、ビジネス系のクライアントとのやり取りで重宝します。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 無料容量 | 5GB |
| 特徴 | Windowsのエクスプローラーと完全に一体化している |
| メリット | 会社勤めのクライアントでもセキュリティ上利用許可されていることが多い |
| 公式サイト | Microsoft OneDrive |
仕上がりに差が出るデータ形式と書き出しの考え方
イラストが完成したら、用途に合わせた最適なファイル形式を選んで書き出します。形式を間違えると、透明だったはずの背景が白くなってしまったり、色が劣化してノイズが走ったりすることがあります。代表的な4つの形式の使い分けをマスターしましょう。
PNGは透過が必要なときに向く
PNG(ピング)は、イラストの背景を透明なまま保存できる「透過」に対応した形式です。キャラクターの立ち絵や、ロゴ、アイコンなど、他の背景の上に重ねて使う素材を渡す際に最もよく使われます。データが劣化しない「可逆圧縮」という方式をとっているため、イラストの線をくっきりと綺麗に保つことができます。
ただし、JPGに比べるとファイルサイズが大きくなりやすいという側面があります。非常に描き込みの多い背景画などをPNGで保存すると、容量が数百メガバイトに達することもあるため、透過が不要な場面では他の形式を検討しましょう。また、PNGはCMYKカラーに対応していないことが多いため、基本的にはWeb・モニター用として活用するのが一般的です。
背景を透過して送る際は、書き出し設定で「透過情報を含める」にチェックが入っているか必ず確認してください。白い背景レイヤーを表示したまま書き出してしまうと、相手が後からキャラクターを切り抜く手間が発生してしまいます。
JPGは軽さ重視の確認用に便利
JPG(ジェイペグ)は、写真や色数の多いイラストを効率よく圧縮して、ファイルサイズを小さくできる形式です。背景が白や単色で決まっている場合や、SNSへの投稿、メールでの進捗確認用のデータを送る際に適しています。読み込みが速いため、相手もスマートフォンなどでサッと確認できるのが利点です。
注意点として、JPGは保存するたびに画質が少しずつ劣化していく「非可逆圧縮」という特徴があります。また、PNGのような背景透過はできません。そのため、納品用の最終データとして渡すよりは、プレビュー用や軽量化が必要なWeb素材用として使うのが無難です。
書き出しの際は「画質(クオリティ)」の設定に注意しましょう。数値を下げすぎると、色の境界線に「ブロックノイズ」と呼ばれる四角い模様が出てしまいます。納品に近い確認用であれば、80〜90%程度の高画質設定を保つのが、イラストを美しく見せるためのマナーです。
PSDやCLIPは編集用として渡すときに使う
Photoshop形式(PSD)やClip Studio Paint形式(CLIP)は、レイヤー構造やパス情報をそのまま保持できる「作業データ」そのものです。相手がデザイン作業を行ったり、後からキャラクターの表情を差し替えたりする必要がある場合に、この形式での納品を求められます。
これらの形式で渡す際は、フォント(文字)の扱いに注意が必要です。特殊なフォントをレイヤーのまま残していると、相手の環境に同じフォントがない場合、文字化けしたり別の書体に置き換わったりしてしまいます。文字は必ず「ラスタライズ」して画像化するか、「アウトライン化」して図形化してから渡すのが鉄則です。
また、最新のソフトで作成したデータは、相手の古いバージョンのソフトでは開けないことがあります。汎用性が高いのはPSD形式ですが、Clip Studio Paint独自の「ベクターレイヤー」などはPSD変換時に画像化されてしまうため、どのような状態で編集したいのかを相手とすり合わせておきましょう。
印刷ならCMYKと塗り足しも意識する
印刷所に直接入稿する場合や、デザイナーにデータを渡す場合は、ファイル形式以上に「印刷設定」が重要になります。前述の通り、カラーモードは必ずCMYKに設定します。また、印刷工程で紙を裁断する際に、端に白い隙間ができないようにするための「塗り足し(裁ち落とし)」を考慮したサイズで描く必要があります。
一般的な塗り足しは、仕上がりサイズよりも上下左右に「3mm」ずつ外側まで描画を広げます。重要な文字やキャラクターの顔は、裁断ミスで切れてしまわないよう、仕上がり線よりも数ミリ内側の「安全圏」に配置しましょう。これらが守られていないと、印刷所からデータの不備として突き返されてしまいます。
[Image of print bleed and trim marks]
入稿形式としては、PSD形式や、印刷に特化したPDF形式が推奨されることが多いです。印刷所の公式サイトには、必ず「入稿ガイド」や専用の「テンプレートファイル」が用意されています。自己流で進めるのではなく、まずはそれらをダウンロードして、決められたルール通りにデータを配置するのが、失敗しない唯一の方法です。
トラブルを減らす渡し方と受け取り側への気づかい
データが正しく作成できていても、送り方が雑だとトラブルの元になります。相手がファイルを受け取ってから「どうすればいいか分からない」と迷わせないための、ちょっとした工夫をご紹介します。
圧縮するならzipでまとめて送る
複数のイラストを一度に渡す場合は、ファイルをバラバラに送るのではなく、一つのフォルダにまとめて「zip(ジップ)形式」で圧縮してから送りましょう。これにより、ファイルの数が多い時のダウンロード漏れを防ぎ、全体の容量も少しだけ軽くすることができます。
圧縮する際は、フォルダの中に「readme.txt(または説明書)」という簡単なメモを入れておくと親切です。そこには、ファイルの内訳や、使用上の注意、著作権に関する連絡事項などを記載します。相手が数ヶ月後にデータを見返した時、そのメモがあるだけで内容を思い出すことができ、非常に重宝されます。
また、Macで作成したzipファイルをWindowsの相手が解凍すると、ファイル名が文字化けしたり、不要な隠しファイル(.DS_Storeなど)が混入したりすることがあります。仕事でWindowsの相手に送る機会が多い場合は、文字化けを防ぐ圧縮ソフト(Archiverなど)を使用するのがおすすめです。
パスワード設定は別送で伝える
機密性の高いイラストや、未公開のプロジェクトに関わるデータを送る際は、セキュリティのためにパスワードを設定することがあります。ただし、データのダウンロードURLと同じメッセージ内にパスワードを書いてしまうと、そのメッセージが第三者に漏洩した際、セキュリティの意味を成しません。
本来の正しい作法は、データを送ったメッセージとは「別のメッセージ(または別の連絡手段)」でパスワードを伝えることです。チャットツールであれば、少し時間を置いてから送るだけでも効果があります。
最近では、クラウドサービスの共有機能そのものにパスワードや有効期限を設定できるものも増えています。GigaFile便やDropboxの共有リンク設定などを活用し、よりスマートに、かつ安全にデータを守る方法を選択しましょう。
差し替えが起きても迷わない管理方法
修正が入ってイラストを再送する場合、古いデータと新しいデータが混ざってしまうのが最も危険なトラブルです。相手が間違えて古い方を印刷してしまった……という事態を防ぐため、バージョンの管理を徹底しましょう。
ファイル名に「_v2」「_revised」といった修正を意味する記号を付けるのはもちろんですが、相手には「前回の〇〇.pngを差し替えてください」とはっきりと伝えます。また、再送する際は修正したファイルだけでなく、必要であれば関連するすべてのファイルをセットにして送り直すと、相手側の管理ミスを減らせます。
特に、クラウドの共有フォルダを使っている場合は、古いファイルを削除するか、専用の「old」フォルダに移動させておき、最新のファイルだけがメインの場所に置かれている状態を保つのがベストです。「どれが本当の最終版か」を誰が見ても一目で分かるようにしておくことが、お互いのストレスを最小限にします。
受領確認と修正対応のルールを決める
データを送った後は、相手が正しく受け取れたかを確認するまでが「渡し方」の工程です。大きなデータを送った際は、「無事にダウンロードできましたでしょうか?」と一言確認の連絡を入れると丁寧です。相手から「受領しました」という返信があれば、ひとまず安心です。
また、納品後に万が一データ不備(透過漏れやサイズミスなど)が見つかった場合の対応についても、あらかじめ決めておきましょう。「不備による修正は〇日以内であれば無償で対応します」といったルールを提示しておくと、トラブルを未然に防ぐことができます。
プロとしての仕事は、イラストを描き上げることだけでなく、そのデータが相手の手元で正しく機能し、目的を果たした瞬間に完了します。最後まで責任を持って見届ける姿勢が、次の仕事へのチャンスを広げてくれるはずです。
イラストデータの渡し方を安心して進めるためのまとめ
イラストのデータの渡し方は、相手の作業を助けるための「最高のおもてなし」です。解像度やカラーモード、ファイル形式などの技術的なルールを守ることはもちろん、ファイル名の付け方や送付時の短いメッセージといった細かな気遣い一つひとつが、あなたの評価へと繋がります。
最初は難しく感じる設定も、一度覚えてしまえばルーティンとしてこなせるようになります。便利なクラウドサービスを活用しつつ、相手の立場に立った丁寧な納品を心がけましょう。完璧な状態で届けられたあなたのイラストは、相手の期待を超え、きっと素晴らしい成果物へと昇華されるはずです。自信を持って、最高の一枚を届けてください。
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